東京地方裁判所 平成11年(ワ)10168号 判決
原告 株式会社第一勧業銀行
右代表者代表取締役 杉田力之
右訴訟代理人弁護士 関口保太郎
古館清吾
脇田眞憲
冨永敏文
吉田淳一
被告 中川徹也
右訴訟代理人弁護士 長谷川純
主文
一 被告は、原告に対し、金二八五〇万円及びこれに対する平成五年一月一一日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、ゴルフ会員権の購入資金を融資した金銭消費貸借契約に基づき、貸金及び遅延損害金の支払を求めたところ、被告が、原告に対し、右契約の締結につき説明義務違反及び保護義務違反による損害賠償請求権を有するとして、相殺を主張する事案である。
一 争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
1 株式会社ロッドモーターズ(以下「ロッドモーターズ」という。代表取締役は金沢文鉄(以下「金沢」という。))は、高級中古車両の販売を業とする会社であり、武田波雄(以下「武田」という。)はその取締役である。
被告は、ロッドモーターズの顧客である。
2 原告は、被告に対し、次のとおり、合計二八五〇万円を貸し付けた(以下「本件各貸付け」という。ただし、利息及び遅延損害金は、一年を三六五日とする日割計算による。)。
(一) 本件消費貸借契約一(甲二)
(1) 貸付日 平成二年一月一九日
(2) 貸付金額 金一一〇〇万円
(3) 弁済期 平成五年一月一〇日
(4) 利息 年七・三パーセント
(5) 遅延損害金 年一四パーセント
(二) 本件消費貸借契約二(甲三)
(1) 貸付日 平成二年二月九日
(2) 貸付金額 金一七五〇万円
(3) 弁済期 平成五年一月一〇日
(4) 利息 年八パーセント
(5) 遅延損害金 年一四パーセント
3(一) 被告は、平成二年二月ころ、本件消費貸借契約一に基づく借入金により、茨城ロイヤルカントリー倶楽部(以下「Aクラブ」という。)のゴルフ会員権(以下「A会員権」という。)を購入した。
(二) 被告は、同じころ、本件消費貸借契約二に基づく借入金により、成田ゴルフクラブのゴルフ会員権(以下「B会員権」といい、これとA会員権とを合わせて「本件各会員権」という。)を購入した。
二 争点
被告は、原告に対し、本件各貸付けに際し、説明義務違反及び保護義務違反により、不法行為に基づく損害賠償請求権を有する旨主張し、平成一一年九月一三日の本件口頭弁論期日において、右債権をもって原告の本訴請求債権と対等額において相殺するとの意思表示をした。
右の相殺の可否に関し、原告と被告との間で、次の点が争われている。
1 原告は、被告に対し、説明義務違反があるか否か。
(被告の主張)
原告は、被告に対し、次のとおり、本件各貸付けの融資条件及び本件各会員権の内容について説明義務を負うものであるところ、これに違反した。
(一) 金融商品のように一見して内容を理解し難い商品を販売する者は、信義則上、高い説明義務を負うものであるところ、平成一三年四月一日施行の「金融商品の販売等に関する法律」は、金融商品の販売業者は、商品に元本欠損のおそれがあるときはその旨及び当該指標を説明しなければならないと定め、右説明義務を明確に規定した。
本件各会員権は、金融商品と同視すべきものであるから、右法律の趣旨は、本件各会員権の販売についても適用されるべきである。
そして、銀行は公共性及び社会的信用を有し、銀行が金融商品等の購入資金を融資する場合には、一般消費者は銀行を信頼して当該商品を購入することが多いことにかんがみると、金融商品等の購入資金を融資する銀行は、当該商品の販売業務に一定程度関与した場合には、顧客が当該商品のリスクを十分理解できるよう説明する義務を負うものというべきである。
(二) ところで、本件各貸付けは、原告が本件各会員権の購入資金全額及びその利息分を融資するものであり、本件各会員権の販売と一体をなすものである。
しかも、原告は、次のとおり、本件各会員権の販売に密接に関与した。
(1) 原告自由が丘支店の支店長細田益照(以下「細田」という。)は、武田に対し、本件各会員権の購入を第三者に勧誘するよう販売業務を委託するとともに、融資業務についても委託した。
(2) 細田は、一部の顧客に対し、A会員権の購入を直接勧誘した。
(3) 細田は、武田との間で、平成二年二月末ころ、細田においては支店の融資残高を増加させる目的で、武田においてはゴルフ会員権の販売手数料を取得する目的で、一種の共同事業契約を締結し、両者は一体となって本件各会員権の販売業務に従事した。
(三) 以上によれば、原告は、被告に対し、本件各貸付けの融資条件についてのみならず、本件各会員権の内容についても、説明義務を負うものというべきである。
しかるに、細田は、武田を通じて被告に対し、本件各会員権は必ず値上がりする、原告は被告が本件各会員権を売却して借入金を返済するまでの間の利息分について追加融資に応じる旨の虚偽の説明をしたものであり、説明義務に違反した。
(原告の反論)
(一) 金融商品の販売等に関する法律の趣旨は、本件各会員権の購入については適用されない。
(二) 原告には、被告が主張するような説明義務はない。
すなわち、銀行と借主との間の金銭消費貸借契約と、借主と商品の売主との間の売買契約とは、別個の契約であり、銀行は商品の売主の地位に立つものではないから、原告が、金銭消費貸借契約又は右契約に付随する義務として、売主の販売する商品について説明義務を負う根拠はない。
しかも、ゴルフ会員権の価格が変動することは公知の事実であるから、原告が本件各貸付けに際し、右事実を説明する義務を負うものではない。
(三) 原告が、武田に本件各会員権の販売業務及び融資業務を委託したり、顧客にA会員権の購入を直接勧誘したり、武田との間で共同事業契約を締結したという事実はない。
2 原告は、被告に対し、保護義務違反があるか否か。
(被告の主張)
貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)は、貸金業者に対し、過剰貸付け等を禁止し(同法一三条)、貸付条件の掲示を義務付けている(同法一四条)ところ、右各規定は、銀行に対しても類推適用されるべきである。
また、一般消費者は、銀行が金銭消費貸借契約を締結する際に行う顧客の資力、信用、返済能力等についての調査を信用し、自らの返済リスクの判断を銀行にゆだねることが少なくないことからすると、銀行は、信義則上、右契約に付随して、顧客の利益を守る保護義務を負うものというべきである。
本件において、原告は、本件各貸付け当時明らかに被告の返済能力を超える貸付けを行ったものであり、保護義務に違反した。
(原告の反論)
銀行は貸金業法に定める貸金業者には該当しないから、同法は銀行取引には適用されない。
また、金銭消費貸借契約の借主が、借入金によりゴルフ会員権を購入した場合、右会員権の価格の変動という投資リスクは、右契約に本質的に内在するものではなく、借主の負担に帰すべきものであるから、原告は、被告が主張するような保護義務を負うものではない。
3 被告の損害
(被告の主張)
(一) 主位的主張
被告は、原告の本訴請求金額から本件各会員権の現在の価格(A会員権は六四万円、B会員は五〇万円)を差し引いた金額について、損害を被った。
(二) 予備的主張
被告は、本件各会員権の購入価格から前記の本件各会員権の現在の価格を差し引いた金額について、損害を被った。
第三争点に対する判断
一 証拠(証人武田、原告本人、甲一二、一三、乙二一、二二、二七)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 細田は、平成元年二月一七日から平成二年七月二四日までの間、原告自由が丘支店の支店長であった。
2 細田は、中学時代の友人で、A会員権の販売代理店の社員である市川千代子(以下「市川」という。)から、平成元年一二月ころ、A会員権を購入する可能性のある取引先を紹介して欲しいと依頼された。その際、細田は、市川から、Aクラブのゴルフ場は既に開発工事に着工しており、平成三年ころ開場する予定であるとの説明を受けた。
3 細田は、A会員権は投資物件として値頃感があり、将来値上がりする可能性があると判断したことから、平成二年一月ころ、武田に対し、A会員権を紹介した。
細田は、武田に対し、A会員権を縁故会員として一〇〇〇万円で購入することができる、A会員権は、一次募集、二次募集がされ、最終的に販売価格が三〇〇〇万円位まで値上がりする、原告が購入資金全額に一年分の利息一〇万円を付加して貸与する、将来ゴルフ場が開場して名義変更が可能となったときに、A会員権を売却して借入金を返済すればいい、と説明した。
4 細田は、武田に対し、他にも良い人がいたらA会員権を紹介して欲しい、武田が個人保証をすることを条件として、同じ融資条件で購入資金を貸し付ける旨を伝えた。
そこで、武田は、ロッドモーターズの従業員、被告を含む取引先、友人等四三人に、A会員権の購入を勧めた。細田は、武田に対し、融資を希望した人数分について融資手続に必要な書類を交付し、これらの書類を武田を通じて徴求した。
なお、武田の関連会社であるジー・エム・エス(代表取締役は金沢)は、Aクラブの運営会社であるロイヤル開発株式会社との間で、平成二年二月末ころ、ゴルフ会員権の販売代理店契約を締結し、会員権を販売した場合には販売価格の五パーセントに相当する手数料を取得するようになっていた。
5 武田は、被告に対し、平成二年一月ころ、A会員権の購入を勧誘した。
その際、武田は、原告に対し、A会員権を縁故会員として一〇〇〇万円で購入することができる、右会員権は、一次募集、二次募集があり、最終的に販売価格が三〇〇〇万円位まで値上がりする、原告が購入資金全額及び利息分を融資するので、自己資金は不要である、一年後にA会員権を売却して借入金を返済すればいい、と説明した。
6 武田は、被告に対し、平成二年二月ころ、B会員権の購入を勧誘した。
その際、武田は、同様に、B会員権は必ず値上がりする、原告が購入資金金額に利息分を付加して融資する旨の説明した。
7 武田は、原告から、融資手続に必要な書類を交付され、これを被告から徴求した。
また、武田は、被告から、本件各会員権の購入後、ゴルフ会員権証書を徴求し、本件各会員権に対する担保権の設定手続を行った。
8 被告は、原告に対し、平成三年三月以降、本件各貸付けに係る利息の支払を遅滞している。
以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
二 争点1(原告は、被告に対し、説明義務違反があるか否か。)について
1 被告は、細田は武田を通じて、本件各貸付けの融資条件について、本件各会員権を売却して借入金を返済するまでの間の利息分を追加融資するという虚偽の説明をした旨主張し、証人武田の証言及び被告の供述には、これに沿う部分がある。
しかしながら、証拠(証人武田、被告本人、甲一三、乙二二)によれば、細田は、Aクラブは約一年後に開場し、A会員権の名義書換えができるものと予測し、基本的には一年後にA会員権を換金して借入金を返済することを想定しており、引き続きA会員権の所有を希望する者との間では、一年後に借入金の返済方法を協議すれば良いと考えていたこと、被告も、武田から、A会員権は値上がりするので一年で売却しようという説明を受けていたことが認められることに加えて、右武田の証言及び被告の供述によっても、細田が確実に追加融資に応じるとの説明をしたものと認めるには足りないことなどに照らすと、細田が本件各貸付けの融資条件について虚偽の説明をしたものと認めることはできない。
したがって、被告の右主張は採用できない。
2 次に、被告は、本件各貸付けは本件各会員権の販売と一体をなすものであるうえ、細田は、武田に販売業務及び融資業務を委託し、一定の時期からは武田との間で共同事業契約を締結するなど、本件各会員権の販売に密接に関与していたものであるから、原告は本件各会員権の内容についても説明義務を負う旨主張する。
しかしながら、本件各会員権の売買契約とその購入資金についての金銭消費貸借契約とは、互いに当事者、目的を異にする別個独立の契約であるから、原告に説明義務を肯定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、原告は本件各会員権の内容についての説明義務を負わないものと解するのが相当である。
本件においては、原告が本件各会員権の販売業者と資本的に一体であるとか、その業務遂行に密接に関与していることを認めるに足りる証拠はなく、かつ、前記認定のとおり、A会員権の販売については細田が武田に対して紹介したことが契機となったものではあるが、本件各会員権の購入を被告に勧誘したのは武田であって、本件全証拠によるも、細田が被告に対し、自ら主導的に勧誘をしたり、被告の本件各会員権を購入するという意思決定に積極的な役割を果たしたものとはいえない。
また、細田が武田に対し、本件各会員権の販売業務を委託したことを認めるに足りる証拠はなく、前記認定のとおり、原告が被告に対し、本件各貸付けに際し、直接の意思確認や信用調査をせず、武田を通じて必要書類を徴求したことが認められるものの、これをもって直ちに、原告が武田に融資業務を委託したものと認めることもできない。
さらに、前記認定のとおり、武田の関連会社であるジー・エム・エスが、ロイヤル開発株式会社との間でゴルフ会員権の販売代理店契約を締結したことが認められるものの、原告が、武田との間で、共同事業契約を締結したことを認めるに足りる証拠はない。
加えて、ゴルフ会員権には取引相場があり、価格が変動することは一般に周知されている事柄であるところ、証拠(被告本人)によれば、被告は、本件各貸付け当時、婦人服の卸売り販売を業とする会社の経営者であり、ゴルフ会員権の価格が変動することを認識していたことが認められることにかんがみると、原告が被告に対し、本件各会員権の価格の変動リスクについてまで改めて説明すべき法的義務を負うものとはいえない。
以上のとおりであるから、被告において、原告が購入資金の融資に応じることが、本件各会員権の購入を決意するのに影響を及ぼしたものであるとしても、原告が、本件各貸付けに際し、本件各会員権の内容について説明義務を負うべき特段の事情があるものとは認められない。
3 したがって、原告は被告に対し説明義務違反がある旨の被告の主張は、採用することができない。
三 争点2(原告は、被告に対し、保護義務違反があるか否か。)について
被告は、本件各貸付けに際し、原告は被告に対する保護義務に違反した旨主張する。
しかしながら、前記争いのない事実等及び証拠(被告本人)によれば、被告は、本件各会員権の購入資金として、自らの意思により原告から本件各貸付けを受けたことが認められるところ、本件各貸付けが、明らかに被告の返済能力を超えるものであったことを裏付けるに足りる証拠はない。
したがって、原告には、被告に対する損害賠償義務を負わせるような保護義務違反があるものとはいえず、被告の右主張は、採用することができない。
四 よって、原告の請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。
(裁判官 森田浩美)